東京地方裁判所 昭和37年(モ)1656号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕仮処分異議訴訟において債権者が仮処分申請を取下げるには債務者の同意を要しない。
〔判決理由〕………通常訴訟の訴の取下に関し民訴法二三六条二項は一定の場合にその効力を被告の同意の有無にかからせているが、仮処分異議訴訟に対する右規定の準用の有無については従来から学説判例上見解が分れており、積極消極いずれの見解にも相当の理由があつて、軽々にその一を正当として採用し、他を不当として排除することはできないように思われる。しかしながらもともと右の規定は、原告の請求棄却の判決が確定した場合にその既判力の効果として、原告は同一の権利関係について再び裁判所の判断を求めることができなくなるから、結局被告は一旦提起された訴について反射的に、訴が取下げられないことについて利益を有するので、被告の右の利益を保護する趣旨と解されるところ、仮処分事件の審理の対象は仮処分命令申請の当事者に過ぎず、申請却下の判決が確定しても通常訴訟事件のように本案の請求権の存否について既判力を生ずるものではないから、仮処分事件の判決が確定しても、将来債権者に必ずしも同一の権利関係について再び裁判所の判断を求めることができないわけではないと解せられ、わずかに同一の被保全権利と必要性に基づく再度の仮処分申請についてのみ申請の利益の有無が論ぜられる余地があるに過ぎないから、通常の本案訴訟に於けるように特に申請取下の効力を債権者の同意の有無にかからせるほどには、債務者の利害を考慮する必要が認められないのみならず、債権者の申請取下によつて既に発令されている仮処分決定は当然に効力を失い、また仮に右仮処分決定に基づく執行状態が現に継続しているとすれば、債務者は右取下を証する書面を執行機関に提出してその取消を求めることができるものであり、継続中の執行状態取消のために敢えて右処分決定取消の判決を要しないと解されるから、債務者の同意のない仮処分申請取下による異議訴訟終了の効果を認めても、この点についての不都合はないし、なお一時の執行によつて債務者が蒙つた損害の賠償は別訴によつて直截的な解決が図れること等の点を考えると、当裁判所はこれを消極に解し、右の規定は仮処分事件については準用されないとするのが相当であると認める。(菅野啓蔵 佐藤安弘 田中弘)